回答

 前科前歴のない初犯の場合でも、実刑判決が出る可能性があります(被害金額など他の要素にもよります。)

 受け子や出し子であっても厳罰が課される傾向にあり、初犯で1年6月から2年程度の実刑判決ということも珍しくありません。

 詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役(複数回行った場合は併合罪となり15年以下の懲役)となります。

はじめに

 振り込め詐欺・オレオレ詐欺など特殊詐欺はまだまだ減っていません。

 平成28年の警視庁のデータでは、特殊詐欺の認知件数は14,151件で前年から微増しており、被害額は406.3億円にものぼっています。
 
 私たちも日々特殊詐欺の弁護を行っていますが、とくに多いのが、振り込まれた現金を引き出す「出し子」や、現金を受け取る「受け子」の弁護です。
 

受け子や出し子として逮捕された場合の特徴

 まず、「受け子」「出し子」はこれまで犯罪歴がない前科がない若者が、知人から誘われてアルバイト感覚で行っていることが少なくありません。
 
 この中には、どういうお金を受け取るのか全く知らされていない者もいます。
 
 しかし、被害額は非常に高額になります。また、回数を重ねると数千万、数億ということも珍しくありません。
 
 そのため、逮捕されると前科前歴がなくても実刑になる可能性があります。
 
 受け子や出し子は何も詐欺の全体像を知らされておらず、場合によっては詐欺行為に加担させられていることすらも知らされないままの場合があります。
 
 逮捕されて初めて詐欺に加担させられていたことを知ることもあります。
 
 他方、指示を出していたものはうまく逃げて逮捕されないことが多い現状です。 
 

留意点

 受け子や出し子で逮捕された場合、前科前歴がなくても実刑判決になる可能性があり、裁判例をみていても厳罰化してきています。
 
 他方で、私たちが担当した事件で、被害額がかなりの高額に上っても執行猶予がついた事例もあります。
 
 実刑になるか執行猶予が付くか、それを分けるのは、出し子や受け子役の認識です。
 
 裁判では、詐欺の被害金を受け取っているとは全く知らなかったといっても、なかなか認められず、間接事実(状況証拠)から故意が認められることが少なくありません。
 
 また、捜査段階で、本当に詐欺であることを知っていたか知らなかったのかを正確に説明することができず、気が付けば「もしかしたら詐欺のお金かもしれないと思いました」などという供述調書が作成されていることがほとんどです。
 
 本当に知らなかった場合になぜこのような未必の故意を自白する供述調書が作成されたのか、本人にきいてみたことがあります。
 
 そうすると、捜査員に自分は詐欺に関わっているとは思わなかったと述べた際、「そうか、詐欺ということは聞かされてなかったのか、それはかわいそうだな。同情するよ。でも、ニュースで振り込め詐欺とかも話もきいたりするな。じゃあ、頭の隅っこでででも、もしかしたら、これは詐欺のお金じゃないかって思うのが普通じゃないか?」「そうですね」「じゃあ、そのときももしかしたら詐欺のお金じゃないかと頭の隅によぎったのではないか」などと言われ、その結果上記のような調書が作成されたということでした。
 
 受け子や出し子に詐欺罪が成立するには、自己の行為が詐欺行為の一環であることの認識がなければなりません。
 
 もし本当に何もしらなければ、受け子や出し子に詐欺罪は成立しません。
 
 そのため、裁判では出し子や受け子の行為時の内心、つまり、詐欺行為の一部を行っている認識の有無が最も重要になります。
 
 しかし、そのような知識もないまま取調べを受け、意味もよくわからないまま供述調書を作ってしまうと、裁判になって、そういう意味ではなかった主張しても、その主張はなかなか信用してもらえません。
 
 したがって、捜査段階、しかも初期段階が重要になります。
 
 かりに、本当に詐欺行為に加担していることを全く知らずに、単に指示され手伝わされていただけの場合でも、知らないうちに自白調書を作成されると、最悪の場合、初犯でも実刑判決が下される危険があります。
 
 弁護人としては、逮捕の初期段階、あるいは逮捕される前の段階から、以上のような留意点を伝えることが重要だと考えています。
 
 実際に私たちが担当した事案の中では、受け子として逮捕されましたが、逮捕初期から弁護を担当し、上記のような説明を行い、実際の内心の認識をきいたうえで、捜査への対応など弁護方針を伝えたところ、不起訴となり勾留から20日後に釈放されたことが何度もあります。
 
 また、逆に<詐欺とは思っていなかったが、もしかしたら、そういう可能性もあるのかもしれない>という認識はあったものの、その認識が非常に弱いものであったため、裁判において認識の弱さを主張・立証した結果、被害金額はかなりの高額であったものの、執行猶予がついた事案もあります。
 
 どちらの場合でも、詐欺罪の場合は内心の認識の法的評価という非常に専門的なものの有無が最大の争点になるため、弁護士のサポートが非常に重要になり、不起訴となるか、実刑になるかの重要な要素となると考えています。
 
  この類型の事件は特に初期段階が重要です。調書が作成される前に弁護士に相談することが理想であると考えます。
 
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