回答

 実刑判決になる可能性があります。

 末端の受け子や出し子であっても厳罰が課される傾向にあり、初犯で1年6月から2年程度の実刑判決ということも珍しくありません。

 詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役。

 複数回行った場合は併合罪となり15年以下の懲役となります。

事例

 息子がオレオレ詐欺(振り込め詐欺)のお金を引き出したとして逮捕されました。

 息子は知人からいいアルバイトがあると誘われ、現金を引き出すだけの仕事だと説明を受けて、コンビニエンスストアのATMから現金を引き出していました。

 一回引き出すごとに、1万円をもらっていたとのことです。

 息子は合計10回現金を引き出して、10万円をもらったと言っています。

 被害金額を被害者の方に弁償すれば執行猶予がつくという話をききました。

 私は息子のしたことですので、被害者の方に弁償をしたいと考えています。

 息子がもらった10万円を被害者の方にお返しすれば、執行猶予になるでしょうか。

 息子はこれまで犯罪にかかわったことはなく前科も逮捕歴もありません。

はじめに

 詐欺によって騙され振り込まれた現金を引き出す「出し子」や、現金を受け取る「受け子」は、知人から誘われてアルバイト感覚で始めたということが少なくありません。

 この中には、どういうお金を受け取るのか全く知らされていない者もいます。
 
 逮捕されて初めて、自分が詐欺の一味であったことを知る場合もあります。
 
 そして、報酬も一回あたり数千円程度ということも珍しくありません。
 

被害弁償と執行猶予

  一般論として、詐欺や窃盗など財産犯の場合、被害金額を被害者の方に弁償すれば、裁判官に被害回復が図られたと評価され、執行猶予判決を得られることがあります。
 
 ここで注意すべき点は、被害回復が図られるという点です。
 
 振り込め詐欺・オレオレ詐欺など特殊詐欺の特徴としては、被害金額が非常に高額になりやすいことがあります。
 
 被害金額が数百万円、数千万円になることは珍しくありません。
 
 そのため、被害者の方の被害すべてが回復されて初めて、被害が回復したといえます。
 
 受け子や出し子として、報酬は10万円しかもらっていないとしても、被害額は一連の詐欺行為による被害額の全額になります。
 
 したがって、報酬である10万円を弁償したとしても、被害者の被害が回復されたとは評価されません。
 
 大阪高裁も、平成28年(2016年)7月に、詐欺グループの末端役の被告2人に課す追徴金の額が争われた刑事事件の控訴審で、出し子などの末端が実際に受け取った報酬の約80万円ではなく、グループによる被害全額の約3600万円をそれぞれ課す判断を示しています。
 
 近時は被害額が100万円をこえると初犯で前科前歴がなくても実刑になることもあります(他の要素との関係もありますので、金額だけの問題ではありません。)
 
 そのため、たとえ10万円を弁償したとしても、実刑判決になる可能性があります。
 
 

弁護方針

 被害弁償は執行猶予の関係では非常に重要な要素です。
 
 しかし、被害弁償の有無のみで執行猶予か否かが決まるわけではありません。
 
 例えば、反省状況、被害者の方への謝罪、被害者の方との示談、
 
 全額弁償できないとしても、現時点で可能な範囲での弁償、弁済計画、
 
 そもそも詐欺に関わった経緯、詐欺行為に加担することの認識の強弱など
 
 さまざまな様相によって判決が決まります。
 
 そのため、仮に被害金額全額の弁償ができなくても、弁護活動によって執行猶予を目指すことも可能です。
 
 ※本件では詐欺に関与している認識があったことを前提としていますが、そもそもそのような認識がなく、単にお金を引き出していただけで違法行為の認識がなかった場合には、無罪を目指すことになります。
 

私たちが実際に弁護した振り込み詐欺の事例

 私たちは特殊詐欺の弁護もよく担当しています。
 
 その中には、出し子として逮捕され、かかわった詐欺の被害金の合計は数百万円にのぼりましたが、詐欺に加担した経緯、加担の内容、詐欺行為の認識の強弱などについて力点を置いて弁護活動を行った結果、被害金額は高額でしたが執行猶予がついた事案もあります。
 
 また、受け子として逮捕されましたが、実際の内心の認識をきいたうえで、捜査への対応など弁護方針を伝えたところ、不起訴となり勾留から20日後に釈放されたことは何回もあります。
 

まとめ

 振り込み詐欺・オレオレ詐欺の受け子、出し子は、少額の報酬でよくわからないままに詐欺行為に加担させられるが、被害金額が莫大となっていることがあります。
 
 よく知らなかったとしても、報酬がわずかであっても、被害が大きいため、前科前歴がなくてもいきなり実刑判決になる可能性があります。
 
 また、詐欺罪の場合は内心の認識の法的評価という非常に専門的なものの有無が最大の争点になるため、弁護士のサポートが非常に重要になり、不起訴となるか、実刑になるかの重要な要素となると考えています。
 
 振り込め詐欺・オレオレ詐欺・特殊詐欺は初期段階が重要です。
 
 初動が重要です。
 

その他(若干の付言)

 私たちが弁護活動をしていると、受け子や出し子として逮捕された方が、詐欺組織と思われる関係先から弁護士(私選弁護人)をつけてもらったり、そのような弁護士から助言を受けていることがよくあります。
 
 受け子や出し子の仕事を紹介されたときに、もし捕まったら組織から私選弁護人をつけるからと約束されたという人もよくいます。
 
 しかし、本当に受け子や出し子として逮捕された方の利益になるかは検討が必要だと思います。
 
 上記のような場合でも、指示役やお金を受け取っている者などは逮捕されず姿を消していることがほとんどです。
 
 詳細は割愛しますが、それぞれの方にはそれぞれの立場があります。それぞれ利益も異なります。
 
 弁護活動は各自の利益を第一に行うべきと思いますので、弁護活動も別に行うことが望まく、各自が自己の弁護を第一に行う弁護人を選任すべきであると思います。
 
 
 

<関連事項>

 

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