事案の概要

 この事件では、Aさんは殺すつもりでBさんを刃物で何度も刺したとして殺人未遂の容疑で逮捕されました。

 被害者のBさんは大量出血し、病院に搬送されましたが幸いにも命に別状はありませんでした。

 下記の弁護士2名でこの事件を担当しましたが、私たちが弁護人になった時点で既に「殺すつもりで何度も刺しました」との自白調書が何通も作成されていました

 しかし、私たちは本当に殺意があったのか疑問があり、この殺意の有無が争点であると考えて弁護活動を行いました。

 

担当弁護士

 

 

 

 

事件の経過

 私たちが話をきいても、Aさんは「殺すつもりでやりました」と何度もいいました。

 しかし事情をよく聞いてみると、Aさんは本当に殺す意思があったのは疑問が生じました。

 さらに事情を伺っていくうちに、Aさんのいう「殺すつもり」というのが、刑法上の「殺意」とは異なり、殺すくらいつらい思いで行為を行ったにすぎず,いわゆる「殺意」はないという結論に至りました。

検察官との意見交換と不起訴意見書の提出

 わたしたちは担当検察官にすぐに連絡をとり、殺意がないのではないかという意見を伝えました。

 そのうえで何度もやりとりを行いました。

 最終的には殺意がなく殺人未遂罪での起訴は不相当であり、殺人未遂であれば不起訴が相当である旨の意見書を提出しました。

処分結果

 勾留満期日に検察官から連絡があり、殺人未遂ではなく傷害罪で起訴した旨連絡がありました。

 殺人未遂罪で起訴されれば裁判員裁判となるため、期間も長期間となります。

 Aさんの状況も踏まえれば裁判員裁判でなく通常の裁判となることもメリットがありました。

保釈

 起訴されてすぐに保釈請求を行い、Aさんは当日に家に帰ることができました。

裁判

 裁判では、Aさんにどのようなことがあり、どのような理由で今回のことに至ったを丁寧に立証しました。

 被害者のBさんとも示談が成立したうえ、Bさんからも寛大な処分を求める嘆願書を取得でき、さらに情状証人としても出廷して頂きました。

 その結果、執行猶予付き判決となりました。

総括

 この事例では、わたしたちが弁護人となった段階ですでに「殺すつもりで刺した」という自白調書がありました。

 殺意があるという供述がすでに証拠化された段階でした。

 しかし、「殺意」とは法的な概念であり、場合によっては一般的なイメージとは異なる場合があります。

 私たちはAさんの「殺すつもり」という言葉をそのまま受け取ることはせずに、Aさんの当時の気持ち、心情やこれまでの出来事・経緯、当日の行動などを詳細に聞き取りました。

 その結果、刑法上の「殺意」はないとの結論に達しました。

 弁護士として先入観を持たず、生の事実、生の声を大切にすることの重要性を再認識しました。

 最近では初期段階で弁護人からアドバイスを受ける前に調書が作成されることが少なくありません。

 一般的には調書を作られ署名・押印した以上、それを覆すのは非常に困難となります。

 その意味で、逮捕された場合には即時に弁護人を付けるのがますます重要になってきたと感じます。

 私選弁護人の場合にはすぐに弁護活動を行うことができるので事案によってはその必要性が高いといえます。

私選弁護人と国選弁護人の弁護期間の違い

私選弁護人と国選弁護人の弁護期間の違い

 

 また、殺意を否定することにより裁判になれば審理が長期化するリスクもありました。

 しかし、殺人未遂罪の罪を負うのか傷害罪の罪を負うのか、その後の人生も大きく変わると思います。

 弁護方針についてはAさんにデメリットやリスクも説明の上、決めていきましたがすべてがよい結果に結びつきました。

<関連事項>

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<注意事項>関係者や事件が特定できないように必要な場合には、事案の性質が変わらない範囲で事実を一部変更している場合などがありますので予めご了承ください。

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